過去2年間、大学選手権2連覇を成し遂げ、昨年の関東大学ラグビー対抗戦も逆転で優勝を飾った大学ラグビー界の名門、早稲田大学ラグビー蹴球部。昨年は、フルタイムコーチの有水剛志氏に登場いただきましたが、今回は、有水氏と同期で、現在早稲田大学ラグビー蹴球部の監督を務めていらっしゃる中竹竜二氏をお招きし、Coach's VIEWでもおなじみの伊藤守(コーチ・エィ代表取締役)と、「勝つための組織・人材づくり」「変化に適応し、変化を生み出していくことの重要性」などを中心に語り合いました。

- 中竹 竜二氏
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前 早稲田大学ラグビー蹴球部監督
1973年生まれ、福岡県出身。福岡県立東筑高等学校卒業後、早稲田大学人間科学部に入学。同時に早稲田大学ラグビー蹴球部に入部し、4年時には主将に選 出。卒業後、イギリスに留学し、レスター大学大学院社会学部修了。2001年三菱総研に入社。その一方で社会人ラグビークラブのタマリバクラブに所属し ヘッドコーチを務める。2006年4月より、清宮克幸氏の後を受け、早稲田大学ラグビー蹴球部の監督に就任。

- 伊藤 守
株式会社コーチ・エィ代表取締役
日本における最初の国際コーチ連盟マスター認定コーチ。 地方公共団体、教育機関、経営者団体などを対象とする講演多数。企業・経営者団体などを対象とした研修のほか、経営者の個人コーチも自ら手がける。またコミュニケーションに関する著書も数多く出版している。
第1回 一流を見極め、三流を活かす
三流は一流を目指すな、すごい三流になれ!
伊藤「中竹さん、今日はようこそお越しくださいました」
中竹「いえいえ、私こそ伊藤さんにお会いできてうれしいです。スポーツとビジネスとで異なる部分もありますが、今日は、コーチングや組織づくりについて伊藤さんに伺ってみたいと思っていますので、よろしくお願いします」
伊藤「こちらこそ、よろしくお願いします。早速ですが、一つ質問してもいいですか?」
小山「はい。もちろんです」
伊藤 「スポーツの場合、ビジネス以上に人材の良し悪しが結果に影響を及ぼす、と私は思うんですね。実際、『どんな組み合わせでメンバーを選べばよいか』『彼と彼の関係性はどのくらい深いものなのか』などと思案に暮れることもあるでしょうが、最終的には優れた人材が集まるチームが勝つのではないか、と。そうした人材集めはどのように行っているんですか?」
中竹 「ラグビー部のスポーツ推薦の枠は、毎年たった3つしかありません。他大学を見ると、多いチームは20人、30人と推薦で獲得していますし、外国人選手も獲ってくる。正直、人材集めという点では、優秀な選手を『獲る』というより『入るのを待つ』という状態ですね」
伊藤 「なるほど。確かに駅伝とかでも海外留学生がいたり、高校生のときからエリートだった選手がこぞって集まっていたりするチームがありますよね。早稲田はそうではないんですね」
中竹 「はい。ですから、たいてい他校との1年生同士の試合というのは負けてしまうんです。相手はエリート集団ですからね。でも、徐々に力をつけていった選手たちが、3年生くらいになると急に勝ち始める」
伊藤 「それは興味深いですね。その過程で、選手の体力、技術、センス、ケーパビリティーなどをどのように鍛えているんですか?」
中竹 「まず、私は、その選手が一流なのか、二流なのか、三流なのかを見極めるところから始めます。出身校とかは関係ないです。弱いチームから来た子でも一流である可能性は大いにあります。とはいえ、だいたいメンバー100人いたら、一流選手は2~3人というところでしょうか」

伊藤 「それであれだけの結果が出せるのはすごい」
中竹 「それは、選手が勘違いしないよう指導しているからでしょうね。私は、三流の選手に一流になれとは決して言いません。『夢を持とうよ』といったことも言いません。15人全員が一流である必要はありませんから。だったら、『すごい三流になれ』と言います。一流のセンスはなくても、タックルだけはとにかくすごい、という選手がチームには必要なんですよ」
伊藤 「なるほど。それはビジネスシーンでもありますね。できない人に夢とか希望とかを与えるよりも、実際『このままじゃ無理だよ』と言って現実を見せてあげた方が、本人の能力が組織に反映されるということは多々あります。私も自分の会社で、『夢を持とう』というようなことは絶対に言いません。常に組織が勝つためにどうするか、ということだけを考え、伝えています」
中竹 「そうですよね。私も最終的には『勝つ』ことだけしか選手に求めません。『ラグビーで人間教育』なんてまったく考えていませんし。『ジェントルマンシップ』や『挨拶』といった取り組みもしていますが、それらもすべて勝つためだから、と言っています。今年は挨拶して勝つぞ!といった具合です。
とにかく話すときには『勝つためだけにやっているんだ』『勝たなきゃ意味がない』と繰り返してきたので、今ではリーダーたちがそれを代弁してくれるまでになりました。最近思うんですよね、『これならもう僕は言わなくていいかな』と(笑)」
このチームにいる以上、勝利だけを目指して戦え!
中竹 「ところで、伊藤さんは人材が何流か見極めるとき、間違えることってないですか? 実は私、何度か失敗したことがあるんです。三流だと思っていた選手が実は一流だった、なんてことが」
伊藤 「それは私にもありますよ。実は以前、社員を採用する際、学歴やキャリアに軸を置いていたことがありました。でも、そういった人の中には、エンジン型ではなく、グライダー型の人もかなり多かったんです」

中竹 「グライダー型、ですか?」
伊藤 「ええ。風が吹かない限り、いつまで経ってもテイクオフしないし、たとえ飛んだとしても、風向きが変わったらすぐに落ちてしまうような人のことです。逆に、エンジン型は状況にかかわらず自ら行動を起こすことができる。決して大きなエンジンを持っている必要はない。でも、一流大学卒業なんていう華やかな翼を持っていても、自分でその羽を動かせないような人間ばかりでは、組織は勝てないと思いますね」
中竹 「その通りですね。うちは1年生から4年生まで、130名を超える部員がいるので、その中で自分はどうしていくべきかと常に考えて、行動していかないと競争には勝てませんし、同じコーチが付いても成長スピードは大きく異なります」
伊藤 「でも、どんなに頑張っても、ラグビー部の全部員がメンバーに入れるわけではありませんよね? レギュラーになれない選手はどのようにモチベーションを高めているんですか?」
中竹 「うちの場合は、1軍の選手でも、6軍の選手でも、全員に『常に1軍のレギュラーを目指せ!』と言っています。そして、『チームを日本一にするんだ』と。何も夢を見させようというんじゃないですよ。そうではなくて、二流だろうが、三流だろうが、ベンチだろうが、TV観戦だろうが、このチームにいる以上は、『勝利だけを目指して戦え』ということです。そして、負けたときは、どんな立場であれ、『俺のせいだ』という自責の念を持て、と。
実際ラグビーなんて、何が起こるか分からないじゃないですか。もしレギュラーが故障したら、バックアップメンバーが試合に出るしかありません。今年度の対抗戦では、ちょっと前まで5軍だった選手が試合に出ましたよ。そういう何が起こるか分からない状態で、常に勝利を目指していないような選手は使えません。そうした気持ちのない選手は、たとえ4年生の冬の時期であっても部を辞めてもらっています」
伊藤 「えっ、4年の冬といったら、もう卒業間近ですよね!?」
中竹 「ええ。でも、いくらそれまで勝利に貢献していたとしても、今の時点で『勝つ気持ち』があるかどうかが重要なんです。『僕は早稲田大学ラグビー蹴球部出身です』と言いたいがために、最後まで籍を置いているような選手は必要ありませんし、士気が下がるだけですから」
伊藤 「私の会社では、コーチングを使ったリーダーシップ開発を行っていますが、リーダーシップとは、そこにいる人たちを参加させる能力に他なりません。そして、人を参加させる目的は一つの方がシンプルで分かりやすい。中竹さんの場合はまさに『勝つこと』を目的としたリーダーシップですね」
中竹 「そうですね。いつまで監督を続けるかは分かりませんが、続ける以上、いつまでも勝利を求め続けていくでしょうね」