システミック・コーチングを用いてクライアントの周辺にも影響を与えていく

コーチングにおける関係者は、通常「コーチ」と「クライアント(コーチングを受ける人)」の二者とされています。そのため、コーチングに関する研究では、「クライアントにどのような効果があるのか」に焦点が当てられてきました。しかし、コーチ・エィが独自開発した「システミック・コーチング」では、クライアントだけではなく、クライアントの周囲にいる人々にもコーチングの影響を与えることで、組織全体にインパクトを与えることを目的としています。

そこで、クライアントだけでなく、その周囲の「ステークホルダー」に、どれくらいコーチングの効果があるのかについて、調査を実施しました。これは、「1対1のコーチングは、クライアント個人に効果がある」という従来の考え方を越えた領域において、定量的なエビデンスを示した発表となります。

分析結果としては、(1)クライアントのコーチングスキルが向上すること、(2)ステークホルダーの職場活性度が向上することが分かりました。

調査概要

2012年から2014年にかけて、67名のコーチ、567名のクライアント、3,170名のステークホルダーから採取したデータを、分析対象としました。コーチは、ICF(国際コーチ連盟)の認定トレーニングプログラムを受講したコーチ・エィのプロコーチ。主なクライアントは企業の管理職、ステークホルダーは彼らと仕事を進めている同じ会社の人々(おもに部下)です。

測定指標

(1)クライアントのコーチングスキル

クライアントに対するステークホルダーからのフィードバックによるアンケート調査CSAPlusを実施。回答項目は、24のコーチングスキルをもとに構成し、コーチングの実施前と後の計2回実施しました。

<項目例>
・相手に気付かせたり、自発的に考えさせたりする質問をしている
・自分の考えを伝える前に、まず相手の考えを尋ねている

(2)ステークホルダーの職場活性度

ステークホルダーが自身の状態について回答する、という形式のアンケートを実施。9項目で構成され、コーチングの実施前と実施後の計2回、同調査を行いました。

<項目例>
・自ら積極的に目標を立てて行動をおこしている
・仕事を通して自分の成長を実感している

(3)コーチのコーチングスキル

コーチに対する複数のクライアントからのフィードバック形式によるアンケートを実施。回答項目は、18のコーチングスキルをもとに構成され、コーチング実施後に同調査を行いました。コーチングの効果を数値化する評価システム「コーチング・スキル・エバリュエーション・システム(CSES)」を利用しています。

<項目例>
・コーチは、私の話をさえぎることなく最後まで聞いていた
・私は、コーチの質問によって新しい気づきを得た

クライアントのスキルに加えて、職場の活性度にも影響が及んでいる

調査データの分析により、いくつかのことが明らかになりました。
代表的なものは次の二つです。

クライアントのコーチングスキルが上昇する

コーチングの実施前後で、指標(2)の24項目すべてが上昇し、全項目で統計的有意差(p<0.01)が認められました。

ステークホルダーの職場活性度が向上する

コーチングの実施前後で、指標(2)の9項目すべてが上昇し、全項目で統計的有意差(p<0.01)が認められました。

また、このほかに、「コーチのスキルが高いほうが、クライアントの変化が大きい」「クライアントの変化が大きい方が、ステークホルダーの変化も大きい」という傾向も確認できました。

クライアント、ステークホルダー、そして、組織全体へ

今回の結果から、システミック・コーチングは、クライアントのみならずステークホルダーにまで影響を及ぼすことを確認できました。また、ステークホルダーの変化は、クライアントの行動変容の度合いに左右されており、「リーダーが組織をドライブする」ことの一端が示されています。今後は、組織全体を変革するコーチングを立証するため、ステークホルダー以外のスタッフへの影響についても調査の対象を広げていきます。

International Columbia Coaching Program Conference

今回、初開催となる同大会は、コロンビア大学に帰属するThe Columbia Coaching Certification ProgramとTeachers College Columbia Universityが後援するカンファレンス。世界中の教育・研究機関や企業・組織から80件以上のエントリーがあり、その中から選抜された約15件が、ペーパー、学習セッション、パネルディスカッション。ライブ・デモンストレーションなどの形で発表されました。マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン校経済学部の名誉教授であるエドガー・シャイン(E.Henry Schein)氏や、米国有数のマネジメント・コンサルタントでコロンビア大学大学院組織リーダーシップ研究学科教授であるW.ウォーナー・バーク(W.Warner Burk)教授らが基調講演を行うなど、コーチングの有効性についてさまざまな発表がなされました。