私たちは、なぜ病院にコーチングを導入したのか②
コーチングによる院長のリーダーシップ再開発
横須賀共済病院 病院長
長堀 薫先生
抄録
今、病院は激動の波に晒されている。7割が赤字という構造不況にあり、地域医療構想のもとポジショニングをどうとるかの決断も迫られている。
院長に就任した4年前、当院(747床、在院日数9.3日、手術数7000件、救急車台数10000台)は危機に陥っていた。小児科が消滅しかけ、救急車を2割断っており、赤字化寸前であった。そこでトップダウンで高度急性期病院へ特化することをめざし、DPC2群、がん拠点などに総合入院体制加算Ⅰ、特定ICU、ダビンチを加え、目標を達成することができた。さらに次の目標として、自身のリーダーシップ向上のタイミングと考えた。トップリーダーである院長としての力が周囲にどのように影響しているのか、自身を分析、可視化し、進化するチャンスは少ない。
そこで、自身のリーダーシップ再開発のためにシステミック・コーチングを取り入れた。コーチングでは周囲からのフィードバックにより、不都合な真実が明らかとなった。「相談しやすい雰囲気」「部下と話す時間を設けている」という項目は、自分の高評価に対し、周囲の評価は低いという乖離があった。また、事業達成の「戦略推進」は高評価だが、他者との「関係構築」は周囲から毀誉褒貶にバラつきがあるなど、漠然と感じていた不安が数値化された。
コーチング・プログラムでは、約半年間、コーチングの理論を学びながら実践として5人の幹部にコーチし、自身もコーチを受けた。この取り組みで、私はこれまで聞きたいことだけを聞き、相手が話したいことは十分に聞いていなかったことに気付いた。
半年後、「時間を取って話を聞いてくれる」「新しい気づきを得ている」などが高評価に変わった。幹部からも「院長に話を聞いてもらうことで目標達成が可能になるとは思っていなかった」という感想もあった。
コーチングで相手のための時間を取り、相手に関心を持ち、動機や背景に耳を傾け、対話を繰り返すことで成果が出ることは新しい発見であり、互いの関係性にも変化を感じることができた。
そこで、コーチングの取り組みを地域医療構想のネットワーク強化にも応用したいと考え、近隣の有力な3病院長と個別にコーチングの機会を持つことができた。
本セッションでは、コーチングで幹部に具体的にどのような影響があったのか、地域医療構想のネットワーク化にどのような可能性があるのかを紹介する。
第20回 日本医療マネジメント学会学術総会
ランチョンセミナー18 より
日時:2018年6月29日(土)
会場:ホテルさっぽろ芸文館 3F 黎明の間 K会場
プロフィール
長堀 薫先生
横須賀共済病院
病院長
略歴
- 1978年
- 横浜市立大学医学部 卒業
- 1980年
- 横浜市立大学医学部第一解剖 助手
- 1983年
- 横浜市立大学医学部第二外科 医員
- 1984年
- 山梨医科大学 第1外科助手 医局長
- 1987年
- 米国カリフォルニア州City of Hope研究所
Biochemical Genetics 博士号取得後研究員
- 1989年
- 山梨医科大学 第1外科助手 医局長
- 1995年
- 同 第1外科講師
- 1998年
- 横浜市立大学浦舟病院 第2外科講師
- 2001年
- 横須賀共済病院 外科部長
- 2005年
- 同 診療部長
- 2009年
- 同 副院長・分院長
- 2012年
- 山梨県立病院 外科科長
- 2013年
- 横須賀共済病院 病院長代理
- 2014年
- 同 病院長
- 2017年
- 横浜市立大学医学部 臨床教授
現在に至る
役割
- 日本外科学会 指導医・認定医
- 日本消化器外科学会 指導医・認定医
- 日本消化器病学会 指導医・専門医 関東支部 評議員
- 日本肝臓学会 指導医・認定医
- 日本肝胆膵外科学会 評議員、高度技能専門医
- 日本内視鏡学会 評議員、技術認定医
- 一般社団法人日本国際医療協力センター医療顧問
- 神奈川県病院協会副会長
- 神奈川県救急搬送受入協議会委員
- 三浦半島病院会 会長